運営:社労士Officeボクマクハリ(東京都葛飾区東水元)
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ひきこもり経験のある
社会保険労務士・岩﨑裕司さんに聞く
「その感情は合っている。自然体の直観を信じてほしい」
岩﨑裕司さんは、元々所属していた劇団を辞めてから約7年間のひきこもり経験がある。働きながら勉強して、3回目の挑戦で社会保険労務士の資格を取得した後、2022年に、個人事務所「社労士Officeボクマクハリ」を開業。現在は、障害年金専門の社会保険労務士として、年金事務所などで相談に応じている。ひきこもり経験のある社会保険労務士という立場から、ひきこもりと障害に関する率直な考えを聞いた。
障害年金と障害者手帳はまったく異なる制度
――まず、社会保険労務士の業務内容について教えてください
社会保険労務士(社労士)は、人材に関する専門家です。労使関係や年金を扱い、企業を対象とした顧問業務から、個人を対象とした成年後見業務まで、業務範囲は広いです。とくに障害年金については、医療福祉制度や障害認定基準に関する専門知識が必要になるため、同じ社労士でもまったくわからないという方もいます。私は障害年金を専門とする社労士として、年金の申請に必要な書類作成や手続きのサポート、年金事務所での窓口相談などを行政と協力して行っています。
――障害年金のメリット、デメリットについて教えてください
障害年金は、原則、公的年金に加入している人が、病気や怪我で日常生活や仕事に制限がある場合、65歳前の現役世代でも年金を受給できる保険制度です。障害年金のメリットには、経済的な援助を受けられる安心感と、法定免除による保険料の納付免除があります。デメリットとしては、障害年金は通常、更新が必要であり、状態が改善すると支給が停止され、将来の老齢年金の受給額が減少する可能性があります。また、受給すること自体に罪悪感を感じる方もいらっしゃいます。
それから、障害年金と障害者手帳は異なる制度なのですが、よく混同されがちです。審査機関や認定基準が異なるため、年金と手帳の等級が異なることは珍しくありません。障害者手帳のメリットには、公共施設の利用料の減免措置や障害者控除、福祉サービスの利用があります。また、障害者雇用において合理的配慮を受けながら働くことも可能です。デメリットとしては、とくに精神的な障害の場合、障害を受け入れられずに手帳をしまい込んでしまう方もいらっしゃるようです。
「ありがとう」と言われると、やっぱり嬉しい
――岩﨑さんが社会保険労務士を目指したきっかけは、どのようなことでしょうか?
障害者雇用で働いていた時、社会保険業務を担当する部署に配属され、そこで同僚から社労士という国家資格があることを教えられたのが、試験勉強を始めたきっかけです。とくに社労士を目指していたわけではなく、業務に必要な知識を得るために勉強を始めましたが、塾に通い、毎朝3時や4時に起きて勉強しているうちに、「合格したら開業しよう」と思うようになりました。
――ご自身のひきこもり経験が今のお仕事に活かされて、大切にできていると思うことはありますか?
お客様の言葉だけでなく、自然とその背景にも思いを巡らせることでしょうか。私自身、ひきこもり時代は、暗闇の中で匍匐(ほふく)前進しているような感覚でしたが、振り返ると、そこから抜け出す扉はいくつもあり、しかも鍵すらかかっていませんでした。障害年金を申請することも、その「鍵のかかっていない扉」のひとつだと感じます。ただ、そもそも保険の仕組みなので、堂々と請求してほしいですね。
仕事のやりがいは、感謝を伝え合う機会が多いことです。「ありがとう」と言われると、やっぱり嬉しいですね。また、年金制度の歴史やお客様の物語、そして私自身の経験が絡み合う仕事なので、日々ドラマチックで刺激的だと感じています。
家族単体でなく社会全体で当事者を包み込む概念を
――ひきこもり状態にある人や家族が置かれた現状に対して、何か思いがございましたら教えてください
ひきこもり状態にある人を抱える家族は、障害年金の申請を希望することが多いですが、本人が申請を嫌がる場合もあります。この問題は複雑ですが、まずは、本人が自分の意思で手を伸ばせる範囲内に情報を届けておくことが重要だと思います。
最近、私が注目しているのは、アメリカでの「ラップアラウンド」という取り組みです。これは、本人とその家族を公的支援機関、ユースサポーター、ファミリーサポーター、友人、知人などがチームになって支援し、全体で包み込むという概念に基づいています。ラップアラウンドは、単に家族だけで問題に対処するのではなく、地域全体でサポートすることを目指しています。個々のニーズに応じたオーダーメイドの支援計画をチームで作成し、実践を通じて家族や個人の状況を改善していくことが特徴です。ひきこもり家族会も単体ではなく、より包括的なものになるといいと思います。
指先ひとつでもいいから前に進めば、いつか振り返ることもできる
――病院への受診が不要で、福祉職や家族会が申請に携わる「ひきこもり手帳」があれば、ひきこもっている本人にとって、経済的な負担が減ると思いますが、いかがですか?
「ひきこもり手帳」のようなものがあれば良い、という人もいるかもしれませんね。ただ、ひきこもりだった当時の私の気持ちにフォーカスしてみると、自分が他者から定義や認定されることに「もやっとした嫌悪感」を感じます。手帳を交付する際の「ひきこもりの定義」をどうするかにもよりますが、私の場合、ひきこもることは人生の再構築であり、繭(まゆ)の中にいるような特別な時間でした。そのため、なんであれ外部からの干渉には敏感でした。
――最後に、読者に向けて、メッセージをお願いします
私がいちばん伝えたいのは、「その感情は合っている」ということです。今あなたが感じていること、どんなネガティブなことであれ、それは合っているし、それで大丈夫と伝えたい。そのうえで、自然と身体や心が動いたら、それがどんなものであれ「合っている」と信じてほしい 。その自然の直観を信じてほしい。頭や思考は身体に遅れてやってきます。大丈夫じゃない自分でも合っていると言いたいし、それを否定する自分もまた合っているんです。この螺旋(らせん)の先に、必ずオリジナルの自分、自然体の自分が待っています。そもそも人間自体が自然なのですから。
今という時代は、生き方の社会モデルが崩壊した答えのない過酷な時代です。自分自身がモデルケースになるしかない、なんとも厳しい時代ですが、そうやってオリジナルの自分、自然体の自分で生きることこそ推奨される素敵な時代へ移行している過渡期でもあるのです。この分水嶺(ぶんすいれい)に立って、人生の再構築のためにひきこもることは、とても自然な行為だと感じます。私がよく「ひきこもりは時代の最先端」だと思うのは、そういった文脈からです。
指先ひとつでもいいから前に進めば、いつか立ち上がって振り返ることができます。振り返って初めて過去が変わります。未来のあなたの観測によって、今のあなたが新たに意味付けられるのです。「そんな未来、あるわけない」と、当時の私なら即座に言います。「それで大丈夫だし、その感情は合っている」と今の私が答えます。ぐるぐると螺旋(らせん)状に7年間蠢(うごめ)いた私を、今の私は誇りに思っています。
■いわさき・ゆうじ/劇団青年団で9年間俳優および演出部として活動し、さらに自身の演劇ユニット「boku-makuhari」で劇作家・演出家としても活躍。7年間のひきこもりを経験した後、37歳で再起し、社労士試験に合格。2022年に「社労士Officeボクマクハリ」を開設し、障害年金やひきこもり支援を中心に活動している。